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ぽぽのたび

むかし、むかし、むらのはずれに 
ちいさな おか がありました。
そらが とてもちかく、
うみと まちと むらが、
みおろせる おかでした。
はるには おか いちめんが きいろと
しろに なりました。
その おかは たんぽぽが さきみだれ、
たんぽぽの はなと わたげが
いちめんを おおっていたのです。
ひとびとは その おかを
ぽぽのおか とよびました。








ある はるのひ、
たくさんのたんぽぽが さきました。
かぜのよくふく おかで、
ときどき そよかぜで、
たんぽぽが ゆれました。
たんぽぽは、
たいようの ひかりで そだち、
まいにち、うみと まちを
みおろしていました。











あるひ、
おかのうえに
ひばりさんが
むしを さがしに
やってきて、
いいました。
「ああ、きょうは なんて
きもちのいい ひ なんだろう。
しおかぜが すばらしい。」
たんぽぽは ゆれて きいていました。
ひばりさんは、あるきながら むしをたべ、
ぴゅんと そらたかく まいあがり、
ピュルピュルと うたっていました。










二わの *ウプパさんが
おかのうえにやってきて、
うたいました。
「おめでとう!
きょう、まちの びょういんで
おんなのこがうまれたよ!」
たんぽぽのなかで
いちばん ちいさいたんぽぽくんは、
そのうたをききながら
いいました。
「しおかぜ?おんなのこ?まち?
なんのこと?」




*ウプパ=やつがしら(とり)







たんぽぽくんのとなりにいた、たんぽぽさんがこたえます。
「しおかぜは うみからくる かぜさ。
うみをみてごらん、おおきいだろう。
さかなという いきものが くらしているらしい。
まちは、ほら、あれが まちだ。
たくさんの ひとが くらしている。
でも、たくさん くるまも はしっているし、
こんらんしているよ。
おんなのこは…あかちゃんのことだけど、
ぼくも みたことないな。
ともかく、うみにも まちにも
ぼくらは くらせない。きけんなんだ。」
「でも、もし とりさんになったら、うみのさかなと
まちのひとを みにいくよ。
もし、はね があったら…。
だけど、ぼくは いつも ここにいなくちゃならない。
うみと まちにいきたいな。」
「まあ、みててごらん。」
ちいさな たんぽぽくんにウインクして いいました。






つきひが すぎて、
ちいさな たんぽぽくんも
おおきくなっていきました。
そのあいだ、ほかのたんぽぽさんたちの
はなびらが とじて、
おひるねを するように
からだを よこにしました。












あるあさ、たんぽぽくんが めをさますと、
たんぽぽさんたちが、しろくなっていました。
たんぽぽくんは、きいろでした。
「なにが おきたの?」
「じゅんびが ととのったのさ!」
みな、くちずさんで いいました。
「なんの じゅんび?」
たんぽぽくんが たずねます。
「とぶ じゅんびだよ!」
「どこへ?」










そのとき、つよいかぜがヒューとふいて、
すべての わたげが とびたちました。
そらいちめんが まっしろになり、
くうちゅうで わたげたちは、バイバイ!
とあいさつしながら、かぜにのっていきました。
わたげさんが、たんぽぽくんに いいました。
「きみも、もうすぐだよ。どこにでもいけるよ。
でもね、きをつけなくちゃいけないのは、
かぜにのること。よくおぼえておいて。
わたしたちは、たねを一つずつ もっているの。
つちの うえに たどりつくことだよ。
そうすれば、また さくことができるよ。」
「もし、つちの うえに たどりつけなかったら?」
「それでも、さくよ。ぼくらは、つよいからね!
また、どこかであおうね、おちびちゃん!よいたびをね!」
「あなたもよいたびをしてね!また、あおうね!」
たんぽぽくんは わたげさんを みあげて さけびました。
「ぼくも、たびを するの?
ええ!ほんとうに!しんじられない!
どこにいこうか?うみか?まちか?
そうだ、まちにいこう!
でも、まちでなにをしよう?
そうだ、あのおんなのこに あいたい!」








なんにちかすぎて、
たんぽぽくんも はなびらをとじ、
おひるねを するように よこになり、
それから すこしして、
わたげになりました。
つよいかぜがふき、
かぜにのって そらに まいあがりました。
まちに いこうとしました。
ところが、かぜにのることができません。
たんぽぽくんの わたげたちは、おかのうえ。
でも、そのうちの 一つのわたげは、あきらめませんでした。









ほとんどの わたげが じぶんたちのばしょをみつけ、
つちのなかに もぐっていきました。
まちにいきたい ゆめをもった、
あの たんぽぽくんの わたげは、
まだ かぜを まっていました。
おかのしたには かぜがやってきません。
それでも、なんにちも なんにちも まちました。
となりには あかちゃん たんぽぽが めを だしていました。
「ああ、もうだめかな?まちには いけないのか…」
あるひ、あめがふりました。
かわいそうな わたげは、びしょり ぬれてしまいました。
もうかぜが ふいても、とぶことは できません。









なにか つめたいものにさわって、
つぎのしゅんかん、わたげは そらに まいあがりました。
「なにがおきたの?どなた?」
「だれ?」わたげを まるい おおきなめが みつめています。
わたげは、このおおきな なにかのうしろに、
ハートがたの もようを たくさんみました。
















「ぼくのはなのうえに だれがいるの?くすぐったい!」
「ぼくは…」
「きみは…まあいいや。ぼくは いのししのこ だよ。」
わたげは、いのししのぼうやの はなのうえにいました。
「こんにちは、しろくん。ここで なにをしてるの?」
「いのししくん、ぼくのじんせいは おわってしまったようだ。
ぼくは びしょぬれで、とぶことはできない。
まちにいくのが ゆめだったのに。」
「まち?ぼくのおかあさん、きけんだから、まちにいってはダメって。」
「しってる。でも、おんなのこに あいに まちにいきたいんだ。」
「まちにいって、おんなのこにあって、そのあと、なにするの?」
わたげは かんがえて いいました。
「おんなのこと くらしたい。」いのししくんは わらっていいました。
「おんなのこと くらせるわけないよ!」いのししくんは わらいころげ、そのいきおいで、
わたげは そらへ まいあがりました。









一ぴきのアリさんが、びしょぬれの わたげをみつけ、
アリのすへ もっていこうとしました。
「アリさん、ぼくのじんせいは おわってしまったようだ。
ぼくは びしょぬれで、とぶことはできない。まちにいくのが ゆめだったのに。」
「まちにいきたかったの?やめておきなさい。まちでくらしている しんせきや ともだちがいるけれど たいへんよ。つちがないから、うまくあるけないって。くるまのあいだを すりぬけてあるくのよ。それでも、いきたい?」
「ぼく…それでも、おんなのこに あいたいんだ。」
そのとき、アリさんとわたげは そらに まいあがりました。
「たすけて!」アリさんは、わたげをはなし、
したへ おちていきました。










「あれれ、きみは こんちゅうではないの?」
ひばりさんは いいました。
「ぼくは…ぼくはだれだかわからないのだけど、
さいしょは きいろで、いまは、しろ。
ぼくは、きみを しってる。
おかのうえで、いつもうたって、
そのあとピュンと そらたかくに とんでいったでしょう?」
「ああ、きみは、たんぽぽ…だった?ピュル ピュル?」
「ぼくは、たんぽぽだったの?いまは…だれなの?」
「わからない。でも、きみには、まちはとおすぎるよ。
ぼくのように そらたかく とべないでしょう?ピュル ピュル」
そういって ぴゅんと そらたかく とびあがりました。












そのとき、わたげは、ひばりさんのくちから
おちてしまいました。
わたげは、ふたたび、つちのうえ。
とても、かなしい きぶんでした。
ひばりさんに、まちにいるおんなのこのもとへ
つれていってもらいたかったのに。
もう、どうすることもできません。
わたげは、なきました。




















「だれが、ないているの?」
わたげが、かおをあげると ウプパさんがいました。
おかのうえで うたっていた、とりさんでした。
「ぼくは もう、あるくことも、とぶこともできない。
でも、まちにいる、はるにうまれたおんなのこに、
あいにいきたいんだ。
てを かしてくれませんか?」
「おんなのこのところへいきたいの?
つれていってあげるよ。」
「ほんとうに?ありがとう。ありがとう。」
ウプパさんは わたげを くちにいれて
あかちゃんのおうちへ とんでいきました。












そして、まどぎわにある うえきばちのなかに、
わたげを おろしました。
「ぼくは、まちにいきたかったのだけど。」
「まちのびょういんから かえって、もうここにいるよ。」
わたげは、まどのそとから おんなのこを みました。
「ありがとう。とりさん。」
「げんきでね。」ウプパさんは、いってしまいました。
わたげは、つかれていましたけれど、うれしそうに
つちのうえに よこになりました。


















つきひが たちました。
あるひ、わたげは、たいようのひかりを かんじました。
おかは、いちめん きいろです。
まどから へやを みると、あのおんなのこがいます。
おんなのこを だっこした、おかあさんがいいました。
「みて、たんぽぽよ。なんて、きれいなの。」
すうかげつご、うえきばちのなかで
わたげは めをだし、たんぽぽくんになっていたのです。
おんなのこは、まだ ちいさかったけれど、
ゆっくり、ゆっくり、おおきくなっていきました。
なつがきて、あきがきて、ふゆがきて、また、はるがきて…
たんぽぽくんは、いつも おんなのこを みていました。
そして、もう、どこかにいきたいとは、
けして おもいませんでした。







おわり。

by bulichellanippon | 2011-01-25 17:14 | 創作おはなし
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ブリケッラ農園に腰を下ろして 早6年。有機栽培のぶどう オリーヴ 野菜 果物に囲まれた生活の中で 心がビオになっていく そんな農園で起こるできごとを お伝えしたく 四苦八苦で取り組んでおります。


by bulichellanippon
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